読んでよかったなと思う本の紹介
読んでよかったなと思っている本を紹介していきますヨ👶
イデオロギーの崇高な対象(スラヴォイジジェク)
哲学に興味のある人はジジェクのことを知っていそうですよね。自分はいつどこで知ったのかはわかりません。ただ、この本は自分にとって間違いなく「事件!」でした。
ジジェクの言うことはだいたい斜めなのですが面白いです。斜めな感じなので、それを題材にしたブログ記事なんかもだいたい面白くなります。この記事とかすごく好きです。ちなみに本記事が面白いかは知りません。
なお第一章からキレキレです。「夢分析の急所は、その夢がなにを表しているのではなく、どうしてある事物がその記号で表されたのかという記号の変換過程にある」という指摘を、そのまま資本システムにおける価値の創発過程に向ける鋭さはすごいです(あまり理解していませんが)。
なお、題名がかっこいいので本棚がカッコよく見えます!それだけでも普通に満足してしまいます。
読んでない本について堂々と語る方法(ピエールバイヤール)
こんなポストが書けるのもこの本のおかげです。
ちょっと気取った言い方をするなら、「そもそも読むってなんだよ、どうしたら読んだことになるんだよ」、そんな話を面白おかしくしてくれる本です。
頭からおしりまで入念に読み込む、もしくは読みたいところだけ読む。パラパラめくってみる。いったいどこからが「本を読む」ということなのでしょうか。そんな問題意識を動力に進んでいきます。ただ、この問いも事態を単純化しすぎでしょう。「読む」という言葉に対して真に向けるべき問いはもっともっと深淵で複雑なことが自然と感じられる本です。
本書はバルトなんかの話もガンガン出てくる本格派です。一方ですごく広い図書館にある本を右から左まで読もうとした人の話など、面白い話も多いです。
読んでない本を語りたいなんて思っていない人にも読んでほしいです。いや、でももしかしたら読まなくてもいいのかもしれないです。なんなら、読まずに語った方がいい本なのかもしれません。なお、私もこの本を「読んだこと」がありません。
PINK(岡崎京子)
きました、岡崎京子です。
すごく印象に残ったマンガです。シティというかなんというか。儚くて危なげで空虚な雰囲気に、エネルギー溢れる絵のタッチとストーリーの求心力があわさっています。
帯に「マンガは文学になった」みたいなこと書いてあった気がしますが、本当にこれはすごいなと思います(文学とはなんなのかが実はよくわかってないけど)。あまり詳しく言うとネタバレになるのでやめます。
ペットでワニを飼うというのはどういうもんなんでしょうね?
息吹(テッドチャン)
とんでもなく面白かったです。短編集ですが、最初の作品が一番好きです。本当に面白いです。これもネタバレになるのでなにも言えません。
新卒で入った会社を辞めたあと、新宿のハイチコーヒー(?)というお店で読んでいたのをすごく覚えています。
本当に、とにかく最初の作品を読んでください。
TAZ(ハキムベイ)
夜に他人の家へと忍び込み、しかし盗まずに詩的テロリスティックなものを置いて帰りましょう。もしくは誰が受信するかも分からない周波数で海賊ラジオを行うのはどうでしょうか。
バーニングマン、無秩序だったと言えなくもないかつてのインターネット、アシッドコミュニズム。というか詩的テロリズムってなに?一時的自律ゾーン?
本書が書かれて28年。異なるカタチの時空への想像力は奪われ、液状化した監視が浸透しきっています。TAZに資する実在/非実在空間およびエネルギーの存在をそれでも信じ続けられるのかと言われると、正直分かりません。
それでもこの本を読めば、試みずにはいられなくなるでしょう。TAZを。
なお、この本はアンチコピーライトということで自由に複製できます。みんなも下のリンクから読んで、銀行の廊下で裸で踊ろう。
デーモン君のソース探検(氷山素子)
BSDのソースコードをデーモン君と読んでいく本です。表紙のコミカル度合いや会話形式の軽妙さに相反していく硬派な内容!とにかくコードを読みまくります。読んで読んで読みまくれ!
デーモンくんのお父さんの考え方が好きです。「manしてわからないならコードを読むしかないな」という、日頃Google検索やAIに頼る私の精神性を叩き直すかのようなセリフは忘れられません。また、既に不要になったコードがデーモンくんのコードリーディングを惑わす事態が起きた際にも、「かつては必要だったものが不要になるのがエンジニアリング、工学の面白さなんだよな」というようなことを言ってのけます。
この本のお父さんのような余裕でコードに向き合いたいです。負債やバグもまた、コードの趣の深さであり面白さであると言わんばかりです。そして実際そうなのだと感じさせられます。
開眼!JavaScript(コディリンドレー)
私はビジネス職から転職するかたちで、つまりいわゆる中途エンジニアとしてプログラミングを始めました。Go言語でバックエンドの開発をしたあと、TypeScriptを使ったフロントエンドの開発に移り、その違いにかなり苦しんだ覚えがあります。
TypeScriptなるものがどうやらJavaScriptになって動いているらしいということを知ったくらいに、この本をたまたま入手しました。
プロトタイプだのなんだの、本当に謎の仕組みがたくさん書いてありました。読むのを断念しました笑 けっきょく代わりに、職場の方に教えてもらった「JavaScript Ninjaの極意」を熱心に読みました。
「開眼!」はけっきょくほとんど読んでいませんが、自分にとってプログラミングの奥深さというか複雑さというか、面白さというか。そういうものを思い出させてくれる本です。
ポケットサイズでふくろうが書いてあるかわいい本なんですけどね。
妖怪学(井上円了)
毎年、夏のこれ以上ないくらい暑い時期に京都の下鴨神社で古本市が開かれます。森見登美彦的な世界観を想像される方もいるかもわかりませんが、5年ほど前に私が行った際には軽やかさも酔狂さも厭世観も風情もなにもない、とにかくトチ狂った暑さの中で前日の雨が作った水たまりを避けながら古本を物色する狂気のイベントでした。
なんと古本市を目当てに京都に行ったものですから、何か買って帰らねばという義務感に駆られていました。そこで購入したのがこちらです。
おどろおどろしい様相の背表紙で6巻セット。妖怪学のパイオニア井上円了が妖怪伝承を考察する本です。
なお、かまいたちの章だけ読みました。また読んでみたい(本棚の奥に身を潜めている)。
弔い、病い、生殖の哲学(小泉義之)
弔いや病い、生殖という深遠なテーマに相対し、これでもかというほどの死闘を繰り広げます。考えて考えて考え抜くという行為のエネルギー、そして自分が信じることを言葉にすることの勇気や覚悟を感じさせられます。
自分は小泉義之のファンです。この本も相変わらず切り口や論理展開がアクロバティックに思えつつも、かなり(個人的に)しっかりとした議論を繰り広げています。
かなり人を選ぶ本だと思います。私にも共感できない部分や納得できない部分があります。それでも、そこまで含めて好きな本です。勇気や覚悟、貫徹されたスタンスに、変な言い方かもしれませんが、勇気づけられます。でも本当に人を選ぶと思います。
「存在論的中絶」は異なる著者の本ですが、こちらもすごいです。何度か読もうとして挫折しています。これも同じく生死や病気、障害や安楽死などを考えており、読む人を選ぶと思います。しかし大事なテーマだと思っています。興味があればぜひ。
寄生獣(岩明均)
名作。自宅に全巻あります!
ウィトゲンシュタイン 原因と結果 哲学(ウィトゲンシュタイン)
大学で「勉強」(?)したことと言えば、自分は物理学専攻だったのですが、残念ながら(?)大学の図書館で探して読んだ哲学の本ばかりが印象に残っています。
この本は衝撃的でした。ウィトゲンシュタインというと青色本(「言葉の意味とは何かを考えるために、意味を説明するとはどういうことかを考えてみよう」というような鮮烈な物言いで始まる、例のやつ)だの論考だの、いろいろとあるのですが、個人的な推しはこれです。
手元にないのでうろ覚えですが、種の話を覚えています。種が発芽した時、芽になったもとの何かが種の中に入っていたはずだと推測できます。では発芽した種を前にして、別の種を半分に切断して断面を観察したら、「芽のもと」が突き止められるのでしょうか。
マッハ力学にも因果関係に関する興味深い問い(もしくはマッハなりの哲学)があったはずですが思い出せません。
因果という言葉がなにを指すのか、なにをもってして事象は原因だの結果だのと呼ばれるのか(もしくは呼ぶべきか)は未だに研究されているテーマだと思います。この本は、もはやだいぶ前の記憶ではありますが、因果について考えてみる良いきっかけになるものなんじゃないかと思います。
科学と社会的不平等(サンドラハーディング)
科学は好きですが、なんでもかんでも知ったような素振りをしてしまう科学者や、なんでもかんでもに当てはめられようとする科学的手法はすこし苦手です。この本は、科学のシステムや考え方が社会的な不平等を維持したり促進したりする力学を論じています。
「科学」や「量的分析」、「論理的思考」や「客観性」といったあたりの概念には、人類学や社会学および哲学や思想界が徹底的にその根拠の薄弱な側面を指摘してきた歴史があるかと(個人的に勝手に)思っています。そのあたりに触れたり、また別の話をしたりしながら進んでいく本です。
この本のテーマからはすこしずれますが、最近は加速主義(テクノリバタリアニズムでもよい)な世界観がはびこって、AIはどんどん「進歩」し、私たち(ただし労働者階級を除く)を「助けて」くれます。すこしブレーキをかけて考えてみてもいいんじゃないかなぁと個人的に勝手に思っています。
諸星大二郎特選集3 遠い世界(諸星大二郎)
冒険家なのか探検家なのか、それとも行く当てのないジプシーなのか。旅を続ける人物により、先々で起きたことが日記の様式で説明されるマンガです。
どの訪問地も特異な文化や生活習慣が根付いており、退屈しません。そして何より、SFが言うところの「外挿」が本当にうまいです。要は「こういう暮らしならたしかにこういうことが起きるから、そういう道具って絶対開発されるよね」という主張にすごく説得力があるのです。
諸星大二郎はあまりわからないのですが、ホラーなんかを描いていることもあり、本作も不気味なテイストが顔を覗かせます。すこしおどろおどろしい話も出てきます。
ただすごく良質な冒険譚だと思います。いや、探検譚というか。笑いとかロマンとかバトルとかなしのワンピースみたいなノリです。奇怪世界。
今回紹介しようか迷ってやめてしまった「ボルヘス怪奇譚集」とどことなく満足感が似ています。大人向けのおもちゃ箱のようなマンガです。
現代の量子力学(J.J.サクライ, ナポリターノ)
思い出の本です。ランダウ力学と迷いましたが、ランダウは物理専攻じゃなくても知っている人がよくいるので、ぜひ広めたいという意味でこちらを紹介です。
ブラケット形式とか、明快な説明とか、なんかいろいろよさはあると思うのですが、なんだかんだ表紙のデザインが好きですとかいうクソ浅い感想をここに残します。これじゃあまるでエアプです。でもウルトラQのオープニングを思い出しませんか?すごいことが始まりそうな表紙なんです。
物語批判序説(蓮實重彦)
とんでもない本です。蓮實文体はぶっちゃけナルシシスティックでスノッブな感じがありますが、幸か不幸か自分はファンです。あの文体からしか得られない満足感が残念ながら(?)あります。
序盤から引き伸ばしていきます。尋常じゃない勿体のつけ方が、文章に独特の緊張感とリズムをもたらします。音読してみると、なんだか頭が良くなった気がします。
全く役に立たない辞書を作ろうとする無謀な男の話が唐突に始まり、私たちがいつも引き込まれている「物語の磁場」を浮き彫りにしていく序盤は一級のサスペンスのように感じられます。
語ることの匿名化とでも言うのでしょうか。ありきたりな感想かもしれませんが、万人がコンテンツクリエイターもしくはレビュワーの時代の2025年にあらためて読まれてほしいです。